週刊「歴史とロック」

歴史と音楽、たまに本やランニングのことなど。

桑田佳祐

サザンオールスターズ 『ピースとハイライト』

ピースとハイライト

ロックバンドとしての
「矜持」を見せる


「アルバムじゃないしシングルだし…」と当初は買わないつもりでいましたが、
結局買っちゃいました、サザンの復活シングル『ピースとハイライト』。
しかもレインポンチョ付きの初回生産限定盤。
シングルなのに2500円という、値段だけはアルバム並みでした。

5年ぶりの復活、ということですが、
正直「えっ?そんなに経ったっけ?」というくらい、
活動休止はついこないだのことのような気がします。
当時はNHKの全国ニュースで取り上げられるほどの話題(?)となりましたが、
サザンの歴史をひも解いてみれば、
数年単位の活動休止は過去にも例があることですし、
僕は「遠からず復活するだろう」と思っていました。
(あ、でも桑田佳祐のガン発病のときはけっこう心配しました)
なので、復活のニュースにも実はそこまで驚かず、
従ってリリースされたシングルについてもそこまで注目してはいませんでした。

それが結局なぜ買ったのかというと、
今回シングルに収録された<ピースとハイライト>をはじめとする曲が、
いつものサザンとは、より正確に言えば「予想していた復活サザン」とは、
少し違うように感じたからでした。

というのも、活動再開後最初のシングルについて、僕は勝手に、
活動休止前最後のシングル『I AM YOUR SINGER』のような、
ファンの一人ひとりに向けたラヴソングか、
そうでなければ<シンドバッド>〜<マンピー>〜<Hotel Pacific>の系譜に連なるお祭りソングの
どちらかを予想していました。

ところが蓋を開けてみれば、
<ピースとハイライト>は、昨今の日中韓の関係を意識した、
コンテンポラリーなメッセージソングでした。
サザンなりのプロテストソング、といってもいいかもしれません。
またB面の<蛍>は、太平洋戦争における日本の特攻隊を描いた映画『永遠の0』の主題歌として、
ストーリーを踏まえたうえで制作された楽曲だし、
<栄光の男>も、政治的な内容ではないにせよ、
人生の折り返しを過ぎた男の哀しさややるせなさを描いた、かなりビターな楽曲です。
CDのジャケットやポスター等には「胸熱」というコピーが躍っていますが、
ずいぶんと楽曲との間にテンションの開きがあるというか、
コピーが楽曲から浮いているなあと僕は感じていました。

サザンはこれまでにも、日本の政治や反戦をテーマにした曲を作ってきました。
(むしろ日本のバンドの中では多い方かもしれません)
しかし、例えば『世に万葉の花が咲くなり』に収録された<ニッポンのヒール>や、
『sakura』の<爆笑アイランド>のように、
意見を生々しく述べるというよりも、
あくまでユーモアに包んで揶揄したり、シャレや言葉遊びの中にサラッと毒を仕込ませたりと、
あくまで音楽的に昇華していくのがサザンの流儀でした。
<神の島遥か国>など、かなりストレートな歌もありますが、
シングルB面にひっそりと収録したりと、
やはり何らかのオブラート処理をしていたように思います。

ところが、<ピースとハイライト>は
「今までどんなに対話してもそれぞれの主張は変わらない」
「都合のいい大義名分(かいしゃく)で争いを仕掛けて」
など、かなり直接的な言い方が目立ちます。
ポジティブなメッセージとして歌っていますが、
選んでいる言葉は、かなりストレートだなあという印象を受けます。
しかも、それをシングルのA面、それも5年ぶりという局面に持ってきた。
それだけ僕らの生きている現実は切迫しているというか、
サザンがこういう曲を歌っているということに、
僕は重たい意味を感じざるをえません。

そして同時に、このタイミングで<ピースとハイライト>のような歌を発表するところに、
サザンのロックバンドとしての矜持を感じます。
社会にコミットし、権力に対して明確なメッセージを投げかけることは、
ボブ・ディランやジョン・レノンをはじめ、
ロック・ミュージシャンの重要な「役割」だったからです。

「会いたくて、でも会えなくて」的な薄ぼんやりした歌詞ばかりが目立つ邦楽メジャーシーン。
その頂点にサザンのようなバンドがいることは、
日本の音楽にとって非常に価値のあることだと思います。

願わくば、名盤『キラー・ストリート』に続く新作アルバムが、
そう遠くない時期に作られんことを。

<栄光の男>
これはサザンの歴代の曲と比べても、かなり上位に入る名曲だと思います。







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SOUTHERN ALL STARS 『KILLER STREET』

killer


最高のポップチューンが目白押し
質・量ともに圧倒的なサザン渾身の2枚組


2008年いっぱいで無期限の活動休止を発表したサザンオールスターズ。
今更詳しい説明など、書くだけ無粋だろう。
キャリア30年、途中幾度かの活動休止期間はあったにせよ、
常にセールス、楽曲の質ともに第一線を後進に譲らなかった、文字通りのモンスターバンドである。

この『キラーストリート』は、現時点におけるサザンの最新アルバムだ。
そんなことはない、と願っているけれど、万が一、このまま活動を再開することがなければ、
このアルバムがサザンのラストアルバムになってしまう。


だが、あえて言えば、本作はラストアルバムになっても仕方ない、
もうこれ以上のアルバムは作れないのではないか、そう思わせるほどの名盤である。
全13枚に及ぶ彼らのオリジナルアルバムのなかで、
おそらく『キラーストリート』がもっとも完成度が高いのではないだろうか。

その理由は単純である。まずは圧倒的な収録量だ。
2枚組、全30曲、トータル135分強。
CD2枚の容量をフルに使ったボリュームである。
そしてプレイボタンを押せば、実に質の高い、
貫禄すら感じさせる最高のポップチューンばかりがひっきりなしにかかるのだ。
全ての曲はキリッと引き締まり、ハズレがない。

あえて言えばオリジナルアルバムで2枚組構成というのは、リスクが高い。
収録曲の多さが仇となって全体の印象が薄まってしまう量的なリスクや、
楽曲のバラエティが広がってトータルでは散漫になってしまう質的なリスクなどをクリアしなければ、
2枚組アルバムというのはよほど成功しない。

だが、良い曲を然るべき順番に構成すれば最高のアルバムが出来上がるのが、
ポップミュージックの基本力学である。
『キラーストリート』はシンプルにそれだけのアルバムなのだ。
良い曲が続けば2枚組だろうが3枚組だろうが、リスナーは満たされる。
理由は単純と述べたのは、こういうことである。
2枚組であることがこれほど贅沢に思えるアルバムもそうないのではないか。


全体のトーンとしては、『Young Love』以降顕著になった、
死と生や永久の愛といった普遍的なテーマがゆるやかに基調を成している。
そのため、かつてのようなスイートさよりも、桑田佳祐のブルージーな面が色濃く出ている。
だが、そこは30年近く磨き上げてきたポップセンスが如何なく発揮されていて、
ともすればハードな手触りになりそうなところをほどよく中和し、
かけっぱなしのBGMとしても、心して聴くタフな楽曲としても耐えうる、
サザン得意のオールマイティーサウンドに仕上げている。

特筆すべきはシングル曲の馴染み方だ。
前作『さくら』から7年ぶりのアルバムということで、
本作には大量のシングル曲及びそのカップリング曲が収録されているが、
驚くほどにそれらがこのアルバムに馴染んでいるのだ。

これは後々知ったのだが、サザンはかなり前から『キラーストリート』の制作に臨んでいて、
シングルとしてリリースされた曲はそもそもこのアルバムに収録する前提で作られたものらしい。
それが、制作期間が長期にわたるにつれ、
リリースまでのいわば“つなぎ”として数曲をシングルカットしたという事情があるそうだ。
だから馴染んでいるのはいわば当然と言えるのだが、
逆に、サザンのこのアルバムに対する並々ならぬモチベーションの高さがうかがえる。


サザンの曲を一曲も知らない、という人はおそらく相当レアだろう。
日本の誰もが、少なくともどれか一曲は知っている。
だが、それゆえ「“いとしのエリー”のサザン」「“真夏の果実”のサザン」と、
多くの人がサザンを曲単位で認識しているのではないだろうか。

それは非常にもったいない。
どのアーティストにも言えることだが、
オリジナルアルバムは当人たちのキャリアと音楽的好奇心がどう変遷し、
どう記録されてきたかという、歴史そのものなのだ。
曲ではなくアルバムで聴くことで、新たなサザンの魅力に気付くはずだ。




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