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「引退した」なんて
真っ赤なウソだった


デヴィッド・ボウイのニューアルバム、
『The Next Day』が先月リリースされました。

『Reality』(2003)以来、なんと10年ぶりの新作です。
誰もが引退したと思っていた(発表直前にも引退の噂を報じた記事を読みました)矢先、
事前告知一切なしでいきなりアルバムのリリースを発表。
世界中のロックファンが文字通りぶったまげました。

続いて発表されたアルバムジャケットも驚き。
これは、1977年のアルバム『HEROES』のジャケットの、
ボウイの顔の部分に空白を作って、
そこに『The Next Day』というタイトルを載せたものです。
(わざわざ「HEROES」というタイトル部分に打ち消し線まで施しています)

彼のキャリアの中でも1,2を争うくらい有名なアルバムジャケットを、
自ら否定するかのように解体し、
その上に「次の一日」という言葉をかぶせたデザイン。
ずいぶん挑戦的というか、かなり意味深なことをやろうとしているな、という印象を持ちました。
(意味深と言えば『HEROES』のジャケットのボウイのポーズも相当意味深ですが…)

そして、アルバムを聴き終えた今、
このジャケットデザインの意味は、やはり当初の印象通り、
ボウイが過去を乗り越えて新たなフェーズに入ろうとしている「宣言」なのだと感じます。

アルバム1曲目を飾るタイトル曲<The Next Day>の。
エッジの利いたギターとダンサブルなビート、
そして「Here I Am!」というコーラス部分の歌詞。
これらはまさに、10年間のブランクも「引退」の噂も全てを一蹴する、
ボウイの強烈なメッセージに他なりません。

「みんなおれのこと引退したと思っていただろう。
 ところがどっこい(←こんな言い方しないと思うけど)、
 おれはまだまだやる気だぜ」
という感じ。

この「現役宣言」を先頭にして、
ポップだけれどもヒネリの利いた、
ボウイらしいバラエティ豊かな楽曲が次々と続きます。
<Boss Of Me>やラストの<Heat>などは、
耳に馴染むまでは「なんてヘンテコな曲なんだろう」と思いました。

しかしその一方で、
<The Stars [Are Out Tonight]>や<Valentine's Day>といった、
ポップで、しかもパンチのある曲も挟んできます。
特に<Valentine's Day>なんかは、
世界で最も長く「スター」を務めてきた男の風格というか、
キングの余裕すら感じさせる曲だと思います。

どの曲も装飾や仕掛けに富んでいていかにも作り込んでいるようですが、
よくよく聴いていると驚くほどどれも歌メロがキッチリハッキリしていて、
ああ、この人は「シンガー」なんだなあと改めて感じます。

もっとも、「ポップ」といっても、
ボウイのポップさというのは、
例えばビートルズとかラモーンズなんかのポップさとは少し位相が違っていて、
和音でいうとマイナーコードというか、
独特の怪しさや陰の暗さを帯びたポップさだと思います。
歌詞も抽象的で、(少なくとも僕には)なかなか「コレ」というイメージをつかみづらく、
入口の手前で右往左往することもしばしばです。

けれど、「この音楽は何かを訴えようとしている」「この人の歌っていることには何かがある」、
そんな予感だけは濃厚に感じられるから、
結果的にかなり長い時間、その世界に惹きつけられるのです。

ボウイってすごく人気があるけど、
本質的にはすごくカルト的な世界に立っているんだなあと改めて感じました。
そんなカルトスターがメジャー大衆層を飲み込んで、
世界的な支持を集めているというところに、
ボウイの稀有さがあると思います。
村上春樹の本がいくら売れようとも、
彼の作品は常にカウンターカルチャーであることと、
どこか似ている気がします。


<The Stars [Are Out Tonight]>







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