gundam uc






懐かしく、そして新しい
「ガンダム、行きまーす!」


2007年2月から今年の8月までガンダム専門誌『ガンダムエース』にて連載されていた小説
『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』。
『終戦のローレライ』や『亡国のイージス』で有名な福井晴敏が執筆を担当し、
来年春にはアニメ化も決まるなど、このガンダムシリーズ最新作は話題に事欠かない。

だが、なんといっても特筆すべきはその内容だ。
物語の舞台は宇宙世紀0096。
これは映画『逆襲のシャア』で描かれた第2次ネオ・ジオン抗争から、わずか3年後にあたる。
これまで語られてこなかった時代だ。

物語はミステリー仕立てで進行する。
アナハイム・エレクトロニクスの実質的オーナーであり、
地球圏の陰の支配者<ビスト財団>が長年秘匿し続けてきた「ラプラスの箱」。
この謎に満ちたアイテムをめぐって、ネオ・ジオンの残党が出てくる。
ロンド・ベルが出てくる。ブライトさんが登場する。
カイやベルトーチカ、ハサン先生なんていうニクいゲストが登場する。
それだけじゃない、なんとミネバ・ザビが登場する。

このスケール感はどうだろう。
かつて『ポケットの中の戦争』や『第08MS小隊』といった
宇宙世紀シリーズの番外編が作られたことはあったが、
この作品はそれらとは根本的に違う。
『ガンダムUC』とは宇宙世紀本編の物語であり、
それも、アムロとシャアの息遣いが色濃く残る「ガンダム第1サーガ」の正統なる続編なのだ。

これは『スターウォーズ』で言うなら、
エピソード7〜9が映像化されるくらいにすごいことである。
つまり、もはや作られることはないだろうと諦めていた物語の作品化が実現したのだ。

しかも、ストーリーは最終的に
宇宙世紀の始まりと地球連邦政府創設の秘密にまで迫っていくのである。
鮮やかに塗り替えられる世界観。
ガンダム第1サーガはこの『ガンダムUC』をもって完結すると言える。
シリーズ最新作は、同時にシリーズ史上最大の問題作でもあったのだ。

ニュータイプ論に真っ向から切り込んでいる点でも本作は続編と呼ぶに相応しい。
主人公バナージ・リンクスは、宇宙世紀の時間軸的に言えば
アムロ、カミーユ、ジュドーに続く第1世代直系のニュータイプ。
バナージが「行きます!」といってカタパルトから飛び立つ場面などは、
感慨深くて涙が出そうになる。

思えば『機動武闘伝Gガンダム』以降、
ガンダムシリーズの主流は宇宙世紀とは別種の世界観を設定した作品群に取って代わられた。
ガンダムの名を冠するものの、宇宙世紀という世界観は継承せずに、
1本1本が独立したパラレルワールドとして描かれてきたのである。
だが、それら“分家”はことごとく、“本家”である宇宙世紀シリーズを超えることができなかった。

例えば「戦争と人」、「人類の革新(成長)」というテーマ。
これら“本家”ガンダムが取り組んできた命題は“分家”シリーズでも受け継がれた。
受け継がざるをえなかった、といった方が正しいかもしれない。
なぜならこれらのテーマこそがガンダムが「ガンダム」たる所以だったからだ。

“分家”独自のものと言えば、たとえばガンダムWなどに見られる機体デザインの変化や、
キャラクターデザインがより女性ファン層向けのものになったといった、
マイナーチェンジでしかなかった。

つまり“分家”は世界観は異なるのに、物語の骨格自体は常に“本家”をどう踏襲するか、
あるいはどう壊すかの二択でしか作られてこなかったのである。
皮肉なことに、原作者である富野由悠季自身が関わった
『∀ガンダム』や『Zガンダム』のリメイクですら、
2次的解釈を施した派生品にしかならなかった。

90年代以降、ガンダムシリーズは明らかに長い停滞期にあった。
もっともその責任は決して作り手側だけに問われるものではなく、
我々ファンも負うべきものである。
ファーストから『逆襲のシャア』までの第1サーガ以外に「ガンダム」のあり方はないとする
ファンの保守性が、作り手の足を引っ張ってきた部分は少なくないだろう。

だが今回の『ガンダムUC』は、その行き詰まり感に風穴を開けることができるかもしれない。
それは、原作者の富野以外に踏み込むことがタブー視されてきた宇宙世紀第1サーガに、
初めて富野ではない人間が手を入れたからだ。

福井晴敏の手によるガンダムは、僕としては充分に「ガンダム」として、
それも“本家”の作品として受け入れられた。
ランバ・ラルを髣髴とさせる叩き挙げの軍人ジンネマン。
職務を全うすることに命を燃やす連邦の特殊部隊隊長ダグザ。
参謀本部と乗組員の板ばさみに喘ぎながらも、
次第に能力を開眼させる<ネェル・アーガマ>の艦長オットー。

己の使命と信念に突き進む大人たちがかっこよく描かれる一方で、
彼らもまた組織や国家というオールドタイプの概念に捉われているというジレンマの構造。
そして、そんな大人たちを軽蔑する少年の目。
ガンダムが描き続けてきた世界がまさにここにある。
富野由悠季の手を離れたにもかかわらず、この『ガンダムUC』は、正真正銘“本家”ガンダムだ。

この作品が前例となり、
今後富野以外の人間による宇宙世紀シリーズが制作される道が開けるはずだ。
(安彦良和の『GUNDAM THE ORIGIN』も一役買っているだろう)
これはシリーズ全体にとって極めて大きな意味を持つことではないだろうか。

来年春より1話50分、全6巻のOVAという形でアニメ化が開始される。
原作のボリュームは到底収まりきらないだろうから、かなり省略されることが予想される。
なので、まずはこの小説から入ることがおすすめ。
ハードカバー全10巻という量は長そうに見えて、
一度ページを開いたらラストまで一気に読み通せるはず。

アニメ版公式サイト
「SPECIAL」というコンテンツでは最新のプロモーション映像を視聴可能。感涙です。




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