
「もうひとりじゃない」
君はそう歌った
このブログでたびたび紹介してきた邦ロックバンド、ピロウズ。『Please Mr. Lostman』でも書いたように、
彼らは結成20周年の記念日である2009年9月16日に、初の日本武道館ワンマン・ライヴを行った。
その模様を完全収録したのが、先週リリースされたこのライヴDVD『LOSTMAN GO TO BUDOKAN』である。
あろうことか、僕はこの日のチケットを逃してしまったので(発売後10分で完売したらしい)、
このDVDがリリースされると聞いたときは、嬉しいというよりもまずホッとしてしまった。
というわけで、4ヶ月遅れとなってしまったが、
なんとか僕も無事にピロウズの歴史的一夜を目撃できたのである。
この日ピロウズが演奏したのは全部で28曲。
人気の楽曲が目白押しなのはもちろんだが、
<90’s MY LIFE>や<ぼくはかけら>といった昔の曲がチョイスされているのも
アニバーサリー・ライヴならでは。
アンコールはトリプルまでかかり、総収録時間は140分にまで及んでいる。
04年にSHIBUYA-AXで行われた15周年ライヴも相当長かったが、
今回はそれをさらに上回るボリュームだ。特別な節目に相応しい質と量を誇っている。
だが、ライヴそのものはというと(もちろん画面を通しての印象だが)、なんだか静かな雰囲気に包まれていた。
メンバーは淡々と演奏し、オーディエンスはそれをじっくり丹念に聴く、という具合で、
会場全体の呼吸はいつものライヴよりもむしろ落ち着いているように見える。
さぞかしお祭騒ぎ的ライヴだったのだろうと予想していた僕は拍子抜けしたのだが、
やがてライヴが進むうちに、この一見クールな空気こそが、「ピロウズの20周年」なのだと思うようになった。
昔も今も、ピロウズはいつも“勇気”を歌ってきた。
だがその勇気とは、「いつも隣には僕がいるよ」というような明快な応援メッセージとしてではなく、
ボーカル山中さわお個人の呟き、あるいは叫びとして表現されてきた。
自分たちの音楽に対する絶対の自信と、望むような評価が得られないという現実。
そのはざ間で山中は自分に言い聞かせるようにして決意を語ってきたのだった。
それは、孤立することを恐れない勇気であり、周囲に馴染めない自分を恥じない勇気だった。
ピロウズを聴くということはつまり、山中のパーソナリティーに触れるということなのである。
それゆえ、聴く者を選んでしまう音楽でもある。
曲が耳に引っ掛かるのを待つのではなく、リスナーの方から積極的に歩み寄らねば、
ピロウズの音楽は耳を通り過ぎるだけで終わってしまう。
だが、ひとたび彼のパーソナルを受け入れることができれば、
そこで歌われている勇気は自分自身のものとして、深く深く心の奥に根付くのである。
ピロウズのファンになるということは、彼らの歌が“自分の歌”になることなのだ。
樹木が少しずつ年輪を重ね幹を太くするようにして、ゆっくりと理解者の輪を広げていく。
それがピロウズの20年だった。
そしてその目に見えない輪が、これまでになく大きく広がったことを証明したのが、
武道館という場所だったのである。
僕がピロウズを聴き始めたのは10年前だったが、その当時彼らがいつか武道館に立つことなど、
ファンであっても誰一人として予想してはいなかったと思う。
武道館はそれくらい象徴的な出来事なのだ。
だが会場の奇妙な静けさは、単なる目標達成の感慨深さによるものではない。
あの日、1万人のファンは、ピロウズの歌のなかに新しい、
そしてこれまでよりもちょっとだけ前向きな勇気を見つけたのである。
その感動が静けさを生んだのだ。
武道館のステージでピロウズが歌ったのは、「僕はひとりじゃない」という勇気である。
ツイート

ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

