
ビートルズも僕らの夢も
「The End」では終わらない
さて、何から話せばいいか……。
ポール・マッカートニーの11年ぶりとなる来日公演「OUT THERE JAPAN TOUR 2013」の、
東京ドーム公演2日目に参加してきました。
今年は1月にリンゴの来日公演も見たので、
1年間で生存している「ビートル」全員に会えたことになります。
これまで何度も書いてきましたが、
ビートルズは僕にとって「北極星」でした。
北天で微動だにしないその星が、船乗りにとって最も頼れる道しるべとなったように、
僕にはビートルズこそが音楽という世界を歩く上での地図であり、
そしてアートと自分の人生との間に橋を架けてくれた、最初の存在でした。
落ち込んだ時も、悲しみに身を焦がされそうな時も、
ビートルズの歌を聞けば、真っ暗に塞がっていく心の中にひと筋の光が射し込むようでした。
ビートルズを知らなかったら生きてはいない、
とまでは言わないまでも、
多分、今よりもずっとモノトーンな人生を送っていたんじゃないかと思います。
そんなビートルズ本人をこの目で見られる。
それだけでなく、歌をこの耳で直に聞くことができる。
それは大袈裟ではなく、僕にとっては革命的な出来事でした。
ましてやポールはビートルズのメインコンポーザー。
リンゴよりもさらにビートルズ時代の「持ち歌」を持っています。
ポールが目の前でこの曲を歌ってくれたら、あの曲を歌ってくれたら…。
僕は何日も前から想像だけでウルウルしていました。
1曲目は<Eight Days A Week>から始まりました。
正直、始まった瞬間はドキドキがピークに達していて、
ただ「ワーワー!」と叫んでいるだけでした。
その後、ソロ新作『NEW』の<Save Us>を挟んで<All My Loving>が始まった瞬間、
僕の涙腺は決壊しました。
大好きな歌だから一緒に歌いたかったのに、涙が止まらなくて歌えませんでした。
後はもう、泣き止んでは歌い、また忘れた頃に涙が溢れ、という繰り返しでした。
ポールが目の前でヘフナーのバイオリンベースを弾いている。弾きながら歌っている。
<I Saw Her Standing There>を、<Eleanor Rigby>を、<Lovely Rita>を歌っている。
それはもうなんというか、昔のマンガみたいにほっぺたをつねってみたくなるような、
まさに夢のような時間でした。
でも、トータルで感想を言えば、
「泣いた」「感動した」というよりも、
「楽しかった」という言葉の方が相応しい気がします。
ポールは御年71歳。
にもかかわらず、3時間近くほぼ休憩なしで、
それも初めの2時間は一滴もドリンクを飲まず、
さらには(多分)全て原曲と同じキーで歌い切ったのです。
ビートルズ時代だけでなく、ウイングス時代、ソロ時代、
そして新譜『NEW』の曲をバランスよく配置したセットリストや、
片言の日本語を交えながら一人ひとりに語りかけるようなMC。
彼のプロ精神、半世紀にわたって磨き上げられたショーマンシップには、
ビートルズを聞けたという感激は与えても、
過去を思い出して涙させるような湿っぽさはありません。
だから僕も、時折自分の中の思い入れによって泣くことはあっても、
それよりも「せっかくだからポールと一緒に歌おう!」「楽しもう!」と感じた瞬間の方が
圧倒的に多かったです。
もう一つ、僕が今回良かったなと感じたのは、
ポールの、「ビートルズとしての現在」が見られたことでした。
これまで僕はポールについて、
新譜をコンスタントに発表してあくまで現役ミュージシャンとして活動してはいるものの、
ことライブに関しては、「ビートルズの伝道師」という役割を受け入れ、
一種の懐メロバンドとしてステージに上がっていると思っていました。
(もちろん、だからこそ僕らはエンジョイできるわけですが)
それは世界で今やポールにしかできない役割だし、
ポールもそれを理解しているんだろうなあと思うものの、
精力的に新曲を作りつづける彼の旺盛なクリエイティビティと、
半世紀近く前の曲をプレイし続けることとを、
どう折り合いをつけているのだろうと思っていました。
その答えの一端を、僕は<Blackbird>を歌っている時に、なんとなく想像できた気がしました。
いくら若々しく見えるポールでも、
ギター一本で静かに歌うこの曲では年齢を隠すことはできません。
かつては伸びやかな歌声で歌っていたこの曲を、
ポールはしわがれた「おじいちゃん」の声で歌いました。
しかし、じゃあそれがダメかというと、そんなことはないのです。
むしろ、「今の」ポールの声だからこそ感じる何かがあります。
特にラストのリフレイン部分の歌詞は、
※「You were only waiting for this moment to arise.」
(ただ立ち上がる時を待っていたんだ)
ホワイトアルバムのオリジナル版と印象がまるで違いました。
オリジナル版では、ポールはこの部分をわりと淡々と歌います。
そのため、「立ち上がる時」を待っていたのはポール以外の誰かで、
その誰かに向けた淡い優しさが前面に出ています。
しかし、今のポールのしわがれた声で歌うと、
「立ち上がる時」を待ち続けたのはポール自身であるように聞こえました。
待ち続け、待ち続け、いつしかこんなにも年を取ってしまった…。
そのような悲哀が漂い、オリジナル版とはまるで違う曲に聞こえたのです。
<Blackbird>ってこういう曲だったのか、という驚きと発見。
これはまさに、今のポールでなければ味わえなかったことです。
ポールはビートルズを「更新」していると僕は思いました。
ポールは決して「あの頃の再現」を目指しているのではなく、
あくまで「今の声で歌うビートルズ」をやろうとしているんだと思いました。
それは、「元ビートルズ」として単に懐メロをプレイするのとは微妙に異なります。
ポールが目指しているのは、いわば「今のビートルズ」なのです。
彼自身も、僕らファンとともに「もしビートルズが今でも活動していたら」という永遠の夢を、
追いかけているのかもしれません。
今回の公演で、一番嬉しかったのは(強いて挙げれば)、
最後の最後に演奏した<Golden Slumbers>〜<Carry That Weight>〜<The End>という、
ラストアルバム『Abbey Road』のエンディングを完全再現してくれたことでした。
ビートルズの歴史を締めくくったこのメドレーを、まさか生で聴けるとは思っていませんでした。
しかし、音楽評論家の中山康樹氏が、著書『ビートルズの謎』で述べているように、
「ビートルズ最後のアルバム『Abbey Road』は、<The End>という曲で“終わらない”」のです。
(その後に約20秒のラストトラック<Her Majesty>が入っているから)
ビートルズの歴史が<The End>で終わらないように、
今回のライヴでも、ポールはこの曲を演奏して舞台を去る際に、
なんと「マタ会イマショウ!」と言ってくれました。
本当に?
今回がきっと最後だと思ってたけど、
そんなこと言うと、信じて待っちゃうよ、ポール?
「OUT THERE TOUR」トレーラー映像
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懐古趣味に走らず、「今」をしっかり生きているアーティストは古今東西そうそういないと思います。
ポールは、「生きている僕がどうして死んでいるジョンに勝てないのか。」と嘆いたエピソードがありますが、ポールはジョンに勝っていると思います。
もしジョンが今も生きていたら、たぶん音楽活動をしているかと思いますが、ポールのように若々しくアクティブに活動しているかどうかは疑問です。
50年以上も第一線で活躍し、今なお新作を発表するアーティストは世界広しと言えどもポールくらいでしょう。
ポールには80歳、90歳になっても現役で活躍してほしいです。