dylan_tempest

「答え」なんてものはないんだ
それでいいんだ


ボブ・ディランの来日公演を見てきました。
昨年11月のポール・マッカートニー、そして今年3月のローリング・ストーンズと、
ここのところ立て続けにロック・レジェンド達のライブを見てきましたが、ついに「真打ち」の登場です。
なにせレコードデビューはビートルズよりもさらに前(1962年3月)。
僕にとっては、もはや教科書に出てくる「歴史上の人物」といっても過言ではありません。

しかし、そんなレジェンドのなかのレジェンドであるにもかかわらず、
実はディランは(他の大物に比べると)頻繁に来日公演を行っています。
前回の来日は2010年で、その際には東名阪の3都市でライブを行いました。

ディランは80年代後半から「ネヴァー・エンディング・ツアー」と呼ばれる世界ツアーを続けていて、
もうすぐ73歳を迎えようという今も、年間100回ものステージを行っているそうです。
しかもすごいのは、会場をスタジアムなどではなく、ライブハウスに限っていること。
ディランほどのアーティストが、若手と同じライブハウスに立ち、
しかも何日もステージをこなすということは(体力とかそういうことではなく)驚異的なことです。

ディランは今でも「現役」なんだと思います。
たとえば、今回のセットリストはほとんどが90年代以降の曲で占められており、
しかも最も多かったのが最新のスタジオアルバム『Tempest』(2012年)の曲でした。
『Tempest』はディランにとって35枚目となるスタジオアルバムです。
52年のキャリアで35枚作っているということは、
単純計算で2年に1枚以上のペースで作品を発表しているということです。
35枚もアルバムを作り続けたということ自体がものすごいことですが、
それをちゃんと(というのも変ですが)ライブで演奏しようと思えるところに、
ディランの圧倒的な「現役感」を感じます。

だって、観客はやっぱり<Like A Rolling Stone>や<Mr. Tambourine Man>といった、
60年代の代表曲を期待しているはずです(もちろん僕もその一人でした)。
ディランもそれを分かっているはずですが、それでも新しい曲を演奏しようとするのは、
彼が「今」を生きている現役のアーティストである証拠です。
だから、ポールやストーンズの公演とディランの公演とは根本的に違うものなのだと思うのです。
60年代の彼の曲を期待していた僕は(最近のディランのセットリストは承知していたので諦めてはいたのですが)、
ほんの少しがっかりしながらも、それ以上に彼の「姿勢」というものに深く感動しました。
ここのところ見てきたロック・レジェンドのライブのなかで、
最も刺激を受けたのは、間違いなく今回のディランのステージでした。

アンコールのラストを飾ったのは、<Like A Rolling Stone>と並ぶディランの代表曲、
風に吹かれて(Blowin' In The Wind)>でした。
(ここらへんはさすがの彼も期待に応えるだけのサービス精神はあるようです)

しかし、なんと、あろうことか、僕は1コーラスが終わるまで、
目の前で演奏されている曲が、あの<風に吹かれて>だとは気付かなかったのです。
というのは、ものすごいアレンジされていたからです。
最近のディランは昔の曲を大幅にアレンジして演奏するので、
長年のファンですら気づかないことがたびたびあるそうですが、
<風に吹かれて>は、もはや原型をとどめないほどに変わっていました。

でも、僕はそのその跡形もない<風に吹かれて>にすごく感動しました。
感動して、そしてすごく納得しました。
60年代中盤にフォークからエレクトリック路線に転向したこと。
その後もカントリーに歩み寄ったり、ゴスペルに歩み寄ったりと、絶えず変化を続けたこと。
ディランは50年間、「自分はこうだ」という決めつけを避け、
一つの場所に安住することを拒み続けてきました。
その結果、以前からのファンが離れたり、理解されなかったりといったことはあったけれど、
それでもディランはずっと自分の感性に従って、絶えず「アップデート」を続けてきたのです。
その彼の姿勢が、原曲とはまるで異なる姿に形を変えた<風に吹かれて>に表されている気がしたのです。

僕はようやく「The answer is blowin’ in the wind」という言葉の意味が分かった気がしました。
答えは風の中にあるーー。
つまりディランは「『答え』なんてものは、はじめからないんだよ」と言いたいんじゃないでしょうか。
少なくとも僕が生で目にしたボブ・ディランという人は、
「答え」や「ゴール」や「完璧さ」なんてものを信じているようには見えませんでした。

「答えやゴールなんて求めずに、完璧さなんて期待せずに、僕は僕の信じるままに行くだけさ」
身もフタもなく、ある種突き放すようなメッセージですが、
今の僕にはとても優しくしみる言葉でした。
思わず涙が出ましたが、周りを見ると、
同じように目元を拭っている人が何人もいました。


アルバム『Tempest』1曲目<Duquesne Whistle>。今回の東京公演でも演奏しました。







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