
「時代は変わったもんだ」と
神様は言った
ジョン・レノンは「彼は僕のスターで、ビートルズは彼から大きな影響を受けた」と語り、
エリック・クラプトンは「彼がロックの法律を作った」と述べ、
ジェリー・リー・ルイスは「神に選ばれた天才だ」と褒め称える、
ロック史上最大の功労者の一人、チャック・ベリー。
その彼が1986年、60歳を迎えた記念に地元セントルイスで行ったスペシャルライヴの映像を収めた
『ヘイル・ヘイル・ロックンロール』が、
本編120分に加え、リハーサル映像などの特典映像120分を加えた特別版として再発されました。
この作品、噂には聞いていたのですが、見るのは初めてでした。
いや〜すごかった(笑)。
「(笑)」と書いてしまうのは、チャック・ベリーのキャラクターが(てゆうか出てくる人ほとんどが)、
あまりにステキ且つぶっ飛びすぎていて、何度も声を出して笑ってしまったから。
ライヴの音楽プロデュースを務め、自身もバックバンドの一人として演奏する
キース・リチャーズ(彼の、まるで愛人のような献身的サポートぶりも見どころの一つ)がリハーサル中、
あまりに気まぐれでアドリブを繰り返すチャックに業を煮やして
「ちゃんとやろうぜ。この演奏はおれたちが死んだ後も記録に残るんだから」と言います。
それに対して答えたチャック・ベリーの一言。
「おれは死なねえ!!」
いやあ、しびれます。まさに「神」。
実際、彼は90歳近くになる今現在も、
月イチでステージに立ってるっていう話ですからね。
(しかも新曲も演っているらしい!)
この映像に収められた、常人離れして生き生きしている彼の姿を見ていると、
「マジでこの人は死なないんじゃないか」と思ってしまいます。
クライマックスのライヴ・ステージは、
エリック・クラプトンやリンダ・ロンシュタット、ジュリアン・レノンらがゲストとして駆けつけ、
非常に豪華なものになりますが、
肝心のチャック・ベリー本人はすごく自然体で、
ずっとニコニコして楽しそうに演奏する姿が印象的でした。
本作品には、演奏シーンと同じくらい、たくさんのインタビューが収録されています。
ライヴ当日の昼間、会場となるセントルイスのフォックスシアターで行われたインタビューで、
チャック・ベリーは、「実は若い頃、このホールで『二都物語』を見たことがあるんだ」と語ります。
ヨーロッパ風の建築様式で建てられたフォックスシアターは、
かつては上流階級の白人が出入りする、権威の象徴的な存在でした。
そのステージに今夜、黒人である自分が、それもロックという大衆音楽を引っ提げて上がる。
チャック・ベリーはしみじみとした口調で、「時代は変わったもんだ」と語ります。
本編ではたびたび、チャック・ベリーとボ・ディドリー、リトル・リチャードという3名
(すさまじすぎる顔ぶれです)が、ピアノを囲んで語り合うシーンが挿入されます。
その中でしきりに、いかに50年代という時代で
黒人である彼らが評価を受けるのが難しかったかが語られます。
メロディや歌い方を、より白人好みに合うように変えさせられたり、
ひどい場合は、自分の作った曲が白人のミュージシャンが作った曲ということになったり。
「ロックンロール」が生まれた経緯についてはさまざまな説がありますが、
一つには、彼ら草創期の黒人ミュージシャンたちが、自分たちのもつブルースという音楽を、
(売れるためにやむなく)白人マーケットを意識して作り変えたということが、
大きな要素としてあるんじゃないかと思います。
上記の2つのインタビューを見ながらハッとしたことがありました。
50年代のロックンロール草創期を描いたミュージカルで
『ミリオンダラー・カルテット』という作品があります。
これは、エルヴィス・プレスリー、ジェリー・リー・ルイス、カール・パーキンス、
そしてジョニー・キャッシュという、スーパースターの4人がたった一晩だけ
セッションをしたという実話に基づいた物語です。
今考えると信じられないような、まさに奇跡的な顔合わせで、
最近エルヴィスをよく聴いていた僕は、
この4人のセッションに憧れにも似た思いを抱いていたのですが、
よくよく考えてみたらこの4人、全員白人なんですよね。
4人が人種差別主義者だったという意味ではありません。
ただ、(彼らが売れていたという点を含め)4人が顔を合わせた「奇跡」には、
50年代の音楽業界を取り囲む、当時の社会状況が影響していたのかなあという気がします。
もっとも、音楽そのものの話においては、当時の白人ミュージシャンたちの多くはこぞって
「黒人のフィーリングを手に入れたい」と試行錯誤を繰り返していました。
エルヴィスだって、「もっとブラックに歌え」とディレクターに指示されて、
やぶれかぶれで歌ったのが<That's All Right>だったのです。
黒人のフィーリングに憧れた白人ミュージシャンたちと、
白人のフィーリングに合わせて自らを変えざるをえなかった黒人ミュージシャンたち。
60年代になれば、両者の融合が純粋な音楽的レベルで結実しますが、
50年代はまだ、人種間の温度差が多分にあったんだろうと想像します。
本編のラストで、チャック・ベリーが誰もいない自宅のリハーサル室で、
一人きりでブルースを演奏しているシーンがあります。
彼の弾くブルースは、驚くほど「乾いて」います。
黒人ミュージシャンが弾くブルース特有の粘り気や湿気が全くと言っていいほど、無いのです。
軽やかなタッチ、切れ目なくつながるメロディアスなフレーズ。
そのフィーリングは、どちらかといえば白人のそれに近い。
その演奏に僕は、彼が歩んできた歴史を見るような思いでした。
※これがまさに還暦ライブの映像。バックにキースやクラプトンの姿が見えます。
「ヘイル・ヘイル・ロックンロール」とは、ラストに演奏したこの曲の歌詞から取られてます。
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