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この人は紛れもない
「シンガー」だったのだ


エルヴィス・プレスリーの1972年のライヴステージを収録した映像集。
この作品は全米公開され、ゴールデングローブ賞ドキュメンタリー部門を受賞しています。

タイトルに「ON TOUR」とある通り、本作品に収録されたステージ映像は、
当時エルヴィスが回っていた全米ツアーの映像を選りすぐり編集したもの。
60年代、エルヴィスは活動の場を映画に移していましたが、68年に歌手として復帰します。
そこから亡くなる77年まで、エルヴィスは1000回以上もステージを踏みました。
この映像に収められた72年のエルヴィスは、いわば第2の黄金期を迎えていたのです。

当時エルヴィスは37歳。
20代の頃と比べれば明らかに身体のラインは崩れていますが、まだ晩年ほどではありません。
例のギラギラした衣装も定着し、リーゼント時代の若々しい時代からすると、
すっかり大御所歌手のようなオーラを漂わせています。

そういったキャラクターの変化を反映してか、
本作品に収録されている曲も、ぐっと大人っぽい渋めのものばかり。
<監獄ロック><ハートブレイク・ホテル>といった、
若いころのヒット曲は入っていません。
歌うのはブルースやゴスペル、カントリーといった、
彼のルーツに近いオーセンティックな曲がメインです。
僕は半分以上の曲を知りませんでした。
だから、往年のヒット曲ばかりを歌うステージを期待すると、
「あれっ?」と拍子抜けするかもしれません。

しかし、それを補って余りある音楽的なレベルの高さがこのステージにはあります。
エルヴィスの、貫録すら感じさせる表情豊かなステージングや、
バンドとのうねるような一体感。
何より驚かされるのは、純粋な歌い手としての技術の高さです。
エルヴィス、歌上手すぎです。
声量は豊かでピッチは機械のように正確。
歌いこなしてる」感がハンパではないです。

そして、あの声。
甘く伸びやかなエルヴィスの歌声には、日本人の僕が聞いてもなぜか郷愁を誘われます。
若いころのようにシャウトしたり腰をくねらせたりはしませんが、
その分、この当時のエルヴィスの歌には、
<ハウンドドッグ>の時代にはなかった「情感」があります。

シンガーとしてたゆまぬ進化を遂げていること。
そして、若い頃のヒット曲に安住せず、
自身の進化する歌声に合わせたセットリストを貫く姿勢。
やはりこの人は紛れもない「シンガー」だったのだと、まざまざと見せつけられます。

本作品には、ステージ上のエルヴィスだけでなく、
リハーサルや移動する車の中で仲間と一緒に歌ったりする姿も収められています。
これがまた上手い。
リラックスしきった、本人にとっては鼻歌レベルの歌ですら、
この人のもつ圧倒的なオリジナリティーを感じずにはいられません。
多くの時間が収録されているわけではありませんが、
この作品の隠れた見どころになっています。








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