
忘れ去られていた
「キング」の帰還
前回に続いて今回もエルヴィス関連アイテムの紹介。
ライヴアルバム『NBC TV Special』です。
「ライヴ」といっても、ホールを使ったコンサートではありません。
舞台はテレビのスタジオにこの日のためだけに設けられたステージ。
1968年6月。エルヴィスが「歌手」としてステージに立ったのは、
実に7年ぶりのことでした。
前回も書いたように、50年代を華々しく駆け抜けたエルヴィスは、
60年代に入ると一転、活動の場を映画に移していました。
しかし、30本以上の映画に主演したものの、
どれも似たようなストーリーばかりで、ほとんど誰からも評価はされませんでした。
ロックという音楽の主役はビートルズへと移り、
一方のエルヴィスは「歌う俳優」と揶揄されるようになります。
エルヴィス自身も、当初は俳優として演技で勝負をしたいと考えていたものの、
いつまで経っても歌ばかり歌わされる役をあてがわれる状況にうんざりしていました。
そんなとき、彼のもとへ歌手としてのテレビ出演の企画が持ち込まれます。
当初はしり込みをしていたエルヴィスですが、
周囲の説得に応じて、ついに出演を承諾。
長らくステージから離れていたエルヴィスはカンを取り戻すため、、
数週間に及ぶリハーサルによって、試合に向かうボクサーのように、
入念に自らを追い込んだそうです。
そして68年の冬、再びレザーのジャケットに袖を通したエルヴィスは
生放送のカメラの前に立ちました。
この日の放送は、視聴率42%を記録したそうです。
(瞬間最高視聴率はなんと70%)
この日のエルヴィスのボーカルは、圧巻の一言です。
<Trouble>の空気を引き裂くような第一声で幕を開け、
そのまま<Guitar Man>を情熱的に歌いあげ。
さらにその勢いを駆って<Heartbreak Hotel>や<Hound Dog>といったヒット曲をたたみかけます。
色っぽさとワイルドさを兼ね備えた唯一無比の歌唱力。
誰もが知るヒット曲を惜しげもなく披露するスター性。
笑いを交えたMCで緩急をつける観客との呼吸感。
全てが一級品です。とにかくかっこいい。
「キング」という称号の所以を、開始わずか10分でまざまざと見せつけられます。
とりわけ僕がいいなと思うのは、(何度も言いますが)エルヴィスの声です。
単純な歌の上手さという点では、彼に影響を受けたジョン・レノンの方が上かもしれません。
ジョンの方が若い分、より洗練されている。
ただ、逆にエルヴィスにはジョンにはない「猥雑さ」があります。
エネルギーといってもいい。
中から溢れてくるマグマを力ずくで抑え込んでいるような、
爆発一歩手前の火山のような緊張感が、エルヴィスの声にはあります。
そして驚くべきは、その声の魅力が、
50年代よりも増しているということです。
エルヴィスへの評価というのは、
ほとんどが50年代のエルヴィスに集中している感がありますが、
僕は、彼が亡くなるまで絶えず進化し続けたことこそが、
エルヴィスのすごい点なんじゃないかと思います。
50年代から順々に彼の声を聞いていくと、
どんどん上手くなっていくのがわかる。
そして、彼の歌唱力が最もジャンプアップしたのが、
長いブランクを経た直後の、この『NBC TV Special』なのです。
当時のアメリカでエルヴィスがどういう風に認識されていたのか、
正確なところは分かりませんが、
おそらく多くの人は、今でいう「オワコン」として見ていたと思います。
そうした世間の目を見事に裏切り、
以前よりもパワーアップして帰ってきたエルヴィス。
優れたライヴアルバムとしてだけではなく、
「エルヴィス物語」の大きな転換点という意味でも楽しめるアルバムです。
この後ツアー活動を再開したエルヴィスは、
亡くなる77年までの間に1000回以上もステージに立ちました。
ほとんどがアリーナクラスの会場です。
エルヴィスはその全ての会場において、
チケットをソールドアウトにしました。
ヒット曲を惜しげもなく連発する怒涛のメドレー
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いくらなんでもジョンレノンごときの方が歌が上手いなんて評価はないわ。
比較の対象にならん