「秋のない世界」をこじらせて

20代の10年間、僕の生活には「秋」という季節はありませんでした。
なぜかというと、毎年この季節、僕は芝居の稽古をしていたからです。

僕が所属する劇団theatre project BRIDGEは当時、
毎年11月下旬から12月中旬に公演を打っていました。
公演の稽古は、早ければ8月の終わりから、遅くとも9月の頭には始まります。
稽古が始まるときはTシャツ短パンだったのに、公演が終わるころには厚手のコートを羽織っていました。
ですから当時は、その間にあるはずの秋という季節を、
まるで意識することなく生活していたのです。

2010年に結成10周年となる節目の公演『バースデー』が終わり、
活動のペースがゆるやかになると、僕の生活に久々に秋が「復活」しました。
ところがいざ芝居のない秋を迎えてみると、
どこか物足りないというか、なんだか落ち着かないというか、
結局、澄み切った秋の青空も紅葉もいまいち楽しめずに終わってしまったのを覚えています。

そして今年、僕は再び「秋のない1年」を過ごそうとしています。
そうなのです。久しぶりに今年は劇団の公演があるのです。
前回の公演『スターマイン』からちょうど3年ぶり。
10月の3連休に『ザ・ロング・アンド・ワインディング・労働』という作品を上演します。
今まさに稽古の真っ最中です。


今回はタイトルの通り「労働」「働くこと」をテーマにした作品です。
実は今回初めて「共作」というスタイルで台本を書きました。
僕含めて3人でネタを持ち寄って1本につなげたという、オムニバス形式の作品です。

社会人劇団が「労働」をテーマに芝居を作るなんて、
リアルすぎて逆に恥ずかしいのですが、幸か不幸かネタには事欠きません。
上演時間90分で約30本のショートストーリーをやります。
数が多すぎて、本番1か月前というのにシーンの順番を誰も把握できてません。

把握できないといえば、今回はやけに役者の台詞覚えが悪い。
台詞だけじゃなくて、例えばどっちから舞台に上がってどっちに去るか、みたいな段取りを、
演出の僕含めて誰も覚えられない。
覚えられないからみんなでメモるんだけど、1週間後にはメモの意味すら忘れてしまって、
もう一度はじめから段取りを付けたりしてます。
おかげで、おそろしく稽古が進みません。

なのに、全員が「どうにかなるだろう」とタカをくくっている。
記憶力と緊張感の著しい低下。
これがアラフォーを迎えた社会人劇団のリアルです。


今年で結成してから丸15年になります。
月並みですが、旗揚げした当初はまさかこんなに続くとは思っていませんでした。

「15年続けている」というと、大抵「すごいね」と感心されます。
学生から社会人になり、転職をし、結婚し、さらには子供が産まれ…と、
環境がめまぐるしく変わる中で延々と芝居を続けていることは、
確かに簡単なことではないのかもしれません。

しかし、「続けている」ことを評価されるのは、決して本意ではありません。
「劇団」と名乗る以上、やはり作品で評価されたいというのが本音であり、矜持でもあります。
未だに高校の同級生同士で集まって、バーベキューやら旅行やらで、
ワイワイ遊んでる写真なんかをSNSで見かけることがありますが、
そういう集団と僕の劇団とを同列で理解されたりすると(わりとよくあるんです)、
大人げもなくムキになって全力で否定したくなります。
「おれたちは死んでもあんな風にはならねえぞ!」と。

とはいえ、全員30代の会社員という状況では、
「続けること」で既にいっぱいいっぱいなのも事実で、
理想と現実とのギャップは、20代の頃とはまた違った意味で、
相変わらず僕の目の前に横たわっています。



15年も続けてこられたのは、
別に仲が良いからでも、芝居が特別好きだからというわけでもなく、
単なる「意地」だったと思います。

このブログでも何度も書いてきましたが、
僕は大学1年の時に、クラスにもサークルにもどこにも居場所がなかったから、
とりあえずの逃避先として劇団を作りました。
元々が現実逃避だったから、その罪悪感を打ち消すために、
一生懸命に芝居に打ち込みました。

周りの同世代の学生劇団が次々と「卒業」していく姿を見ながら、
僕は彼らを「負け犬」と蔑んでいました。
けれど本当は、僕は彼らが羨ましかったんだと思います。
だって、大学を辞め、あてもなくフリーターになっていた当時の僕には、
「卒業」する先はなかったから。
だから、そんな自分を正当化するために、僕は意地になって劇団を続けてきたのです。
そうやってこじらせてきた結果が、15年という歳月なのです。



土日にフルに稽古をした翌月曜の朝、会社に向かう通勤電車の中で、
僕はいつも「世界を移動する」感覚に捉われます。
非日常から日常へ。
物語から現実へ。
自分だけが知っている秘密の世界から、元いた世界へと帰っていく感覚です。

2つの世界を移動するのは、正直ものすごくしんどいです。
よくもまあこんなことを何年も続けていたものだと呆れます。
けれど同時に、このしんどさによって僕は思い出すのです。
形だけサラリーマンになっても、家庭を持って一人前を気取っていても、
結局自分は15年前に逃げ出した頃のまま、何も変わっていないということを。

ストイックなわけでも、マゾヒストなわけでもありません。
ただ、僕はこの「秋のない世界」からは、そこからだけは逃げないと決めているのです。
こじらせていようが自意識過剰だろうが、
もう少しだけ僕は意地を張ろうと思います。

L&W

theatre project BRIDGE vol.14
『ザ・ロング・アンド・ワインディング・労働』
シアターグリーン BOX in BOX THEATER

10/10(土)14:00 / 19:00
10/11(日)14:00 / 19:00
10/12(月祝)14:00
※開場は開演の30分前です

http://www.t-p-b.com/




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