
ファンタジックな未来を語る
「ストーリーテラー」としてのコレクターズ
先週に続きコレクターズの話。
コレクターズは今年結成30周年で、3/1には初の武道館公演を開催しました。
行きたかったなあ。
武道館公演の1か月くらい前だったかな?
彼らがNHK BSの『The Covers』に出演してたのをたまたま見たのですが、
そこで披露した新曲<悪の天使と正義の悪魔>があまりにかっこよくて、
すぐにアルバム『Roll Up The Collectors』を買いました。
いやー、すごい。
キャリア30年でなんでこんなにもフレッシュで、
まるでベスト盤のようなテンションのアルバムを作れるのか。
この作品を聴き終えたときの感想は「圧倒された」という一言に尽きます。
大滝詠一の執筆した原稿や、インタビューや対談での発言をまとめた、
『大滝詠一Writing & Talking』という本があるのですが、
その中でポップソングのメロディには「ドライ」と「ウェット」の2種類がある、
というような言葉があります。
ざっくり言うと、欧米のポップソングのメロディは「ドライ」で、
日本の歌謡曲のメロディは「ウェット」という分類になります。
僕は、前者はクラシック発祥で後者は民謡発祥、という風におおざっぱに理解しています。
んで、この表現を使うのであれば、
僕は以前からコレクターズの加藤さん(どうしてか加藤ひさしは「さん」付けになる)は、
日本では少数派の「ドライ」なメロディの書き手だなあと思ってたのです。
ただ、大滝詠一のドライをアメリカンポップス的とするならば、
加藤さんのドライはイギリス的と呼びたくなります(そんなのがあるのか?)。
イギリス的というのは、アメリカにくらべるとより情緒的でドラマチックで、
もっといえば青臭い感じ(アメリカはもっと産業的で理性的でシステマチック)。
僕は特に、ピート・タウンゼントのメロディとの間に共通するものを感じます。
フーやキンクスといったモッズバンドを聴きこんでいた頃は、
どっぷり浸かりすぎて逆に気付けなかったのですが、
両者とも、オープンDコードをジャーンと弾く!みたいな衒いのなさと、
妙に生真面目で物語性の強いところがそっくりな気がする。
一方で、僕は『Roll Up The Collectors』を聴いて、コレクターズの中にある、
レトロでクラシックなモッズというスタイルとは真逆のキャラクターも感じています。
それは、歌詞にみられる「近未来的な世界観」です。
例えば<ロマンチック・プラネット>では宇宙人が登場します。
<That’s Great Future>はタイトルからして既に「未来」ですが、
前後左右にも動くエレベーターやレストランで食事を運ぶドローンといった光景が歌われます。
こういった、近未来をイメージさせるアイテムが、
コレクターズの歌詞の中にはちょいちょい登場します。
過去に目を向けても、タイムマシーンが登場する<僕の時間機械>などの曲もそうですし、
そもそもデビュー曲<僕はコレクター>の「コレクター」という概念からして非常に未来的です。
重要なのは、これらのアイテムは歌詞の中で近未来そのものを描くためではなく、
「恋人と過ごしていたあの頃に時間を戻してほしい」と歌われる<僕の時間機械>のように、
あくまで普遍的で素朴な感覚を歌うメタファーとして使われていることです。
PerfumeやかつてのTM Networkが体現するのが、
先端的なテクノロジーに彩られた「ありえそうな未来」だとしたら、
コレクターズの描くのは「ファンタジーとしての未来」といえるかもしれません。
何らかの感情を表現する際にどんなものに例えるかによって、
そのアーティストの個性が表れるとすれば、近未来的アイテムを選ぶ感性は、
少なくとも僕がこれまでなんとなくとらえていた「コレクターズ像」からすると意外なものです。
ですが、この「ファンタジーとしての未来」を軸にすると、
おしゃれすぎるモッズファッションも、
加藤さんのキッパリハッキリしたボーカルも、
実は元々「ファンタジーとしての未来」を物語るための仕掛けだったようにも思えてきます。
つまりコレクターズが、デヴィッド・ボウイにも通じるような、
演劇的な感覚に満ちたストーリーテラーのように見えてくるのです。
前述の『The Covers』で、コレクターズは「同期のバンド」としてブルーハーツを挙げ、
<リンダリンダ>をカバーしました。
僕がブルーハーツの<リンダリンダ>に「おおお!」となったのはまだ10代の頃でした。
それに比べ、コレクターズの音楽にハッ!としたのは20代の終わりになった頃。
「同期」でありながらこのようなタイムラグが起きたのは、
コレクターズの方は、彼らの代名詞でもあるモッズのファッションや音楽スタイルが、
実はストーリーテラーとしての衣装であり仕掛けにすぎないという、
目に見えるものとその内側とに微妙なギャップがあり、
それを(少なくとも僕は)大人になるまでわからなかったからじゃないかという気がします。
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