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武道館らしくないバンドの
もっとも「武道館らしい」ライブ


この数年、「ベテランバンドの初武道館」がすっかり恒例化しました。
怒髪天(2014年、結成30年目)、フラワーカンパニーズ(15年、結成26年)、
そしてつい先日のコレクターズ(17年、結成30年)。
※思えば09年のピロウズ(09年、結成20年)がその嚆矢だった気がします
そしてつい先日、過去のどのバンドよりも武道館らしくないバンド
ある意味「真打」が、あの八角形の屋根のあるステージに上がりました。

Theピーズです。
6/9、結成30周年で初となる武道館ライブを見に行ってきました。

ベテランバンドの初武道館って、
「苦節何年、ついに光の当たる場所に出てきました…」みたいな
涙の「物語」とどうしてもセットになりがちです。
でもこの日のステージは、3人のキャラクターもあって、
まったく湿っぽくならず、終始笑いの絶えない「お祝い会」といった雰囲気でした。

「物語」はもう十分みんなの中で醸成されているんだから、
それをあえて口に出すのは野暮ってもんだろう。
そういう大人の信頼関係ができあがっていることに、
30年という時間の重さを感じました。

「物語」を明示しないもう一つの理由は、
必要な言葉や気持ちは、楽曲の中で既に語られているからです。
例えば、アルバム版よりもテンポを遅くして演奏された<鉄道6号>
いつも通り、本気と冗談の境界線がわからないゆるいキャラのままのハルが、
やっとこんないいとこまで たどりついてしまった
ああお疲れさんだよ

という冒頭のフレーズを歌ったときの、あのグッとくる感じは、
たとえメンバーが涙を流しながら感動的なMCをしたとしても生まれないでしょう。

そういえば<鉄道6号>だけでなく、
<線香花火大会>や<ドロ舟>、<実験4号>といった、
Theピーズの作品の中でも最も苦いアルバム『リハビリ中断』の楽曲が、
あの場で歌われるとハッピーで楽しい曲に聴こえたことも象徴的でした。



もう一つ、とても印象的だったのは、
「ピーズというバンドは、実は武道館がよく似合う」ということでした。
そうなのです、冒頭にも書いたように、
見る前は「武道館らしくないバンド」とばかり思ってたのですが
実際に見てみたら、武道館の雰囲気が心地よくハマッていたのです。
僕はかなり前の方で見てたのですが、2階席の人も似たようなことを言ってたので、
ステージとの距離の問題ではないようです。

では何が理由なのか。
高音が割れるギリギリ手前のつんざくような雑な感じの音は武道館らしくなくてよかったし、
曲のスケール感も武道館の大きさにまったく負けていませんでした。
特に<バカになったのに>、<底なし>、ラストの<グライダー>はすごい迫力だった。
その一方で、3人のMCは普段通りだから、心理的な距離感は普段と変わらない。
でも僕は、一番の理由は、ピーズだけがもつ客席の熱気なんじゃないかと思います。

終演後、出口に向かう人波の中で、近くにいた男性が、
「ピーズ聴いてる人、こんなにいたんだな」と呟いたのを聞きました。
多分ほとんどの人が同じ気持ちだったと思います。
僕だって、これまで出会った人の中で、
ピーズが好きという人なんて片手で数えられますから。

ピーズは、入口は誰の目にもわかりやすい場所にはないけれど、
一度入り込めばどこまでも奥にズブズブと入り込んでしまうバンドです。
僕が出会ったことのあるピーズが好きな人たちも、
一度口を開いたら、延々とピーズのことを話し続けるような人ばかりでした。

「自分だけがピーズを知っている」という誇りと、
「自分しかピーズを知らない」というさみしさ。
ピーズのファンは、おそらく他のどのアーティストのファンよりも、
「この気持ちを共有したい」という欲求に飢えてたんじゃないでしょうか。

30年分溜まったその欲求を、これまでで一番大きな規模で叶えられるとしたら。
その場所はやはり、武道館という聖地しかなかったと思います。
そういう意味で、僕は今回のピーズのステージこそ、
もっとも「武道館らしい」武道館ライブだったと思います。

今では、「ブレイク前夜」レベルの認知度でも
勢いがある若手アーティストであれば武道館でライブを行います。
武道館は今や到達点ではなく通過点に過ぎないのかもしれません。
そういう時代に「ベテランバンドの初武道館」という物語は、
若い人にはきっと時代遅れに映るでしょう。

でも、たとえ時代遅れだとしても、
僕はピーズのライブのような「武道館」が好きだなあ。






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