黒と白のように、昼と夜のように
僕らは一緒にやっていこう
あるアーティストを追い続けていると、新作が出るたびに以前の作品から何がどう変わったか(変わってないのか)に敏感になってしまうものですが、ヴァンパイア・ウィークエンドが今年5月にリリースした新作『Father Of The Bride』も、前作『Modern Vampire of the City』(2013年)から6年のあいだに起きた変化を如実に反映したアルバムとなりました。
一つは、トランプ政権の誕生。多くのアーティストが、「トランプ以降」の世界について、作品を通じて何らかのアティチュードを表明していますが、ヴァンパイア・ウィークエンドも例外ではありませんでした。<Harmony Hall>や<This Life>は、明らかにトランプ政権下のアメリカを視野に入れた曲だと思います。<This Life>の下記の歌詞なんて、思わずハッとしました。
Baby, I know hate is always waiting at the gate
I just thought we locked the gate when we left in the morning
And I was told that war is how we landed on these shores
I just thought the drums of war beat louder warnings
しかし、バンドにとってこの6年間に起きたもっとも大きな変化は、なんといってもロスタム・バトマングリの脱退でした。
ロスタムの脱退は、単に1人のプレイヤーがバンドから抜けたというだけに留まらなかったはずです。なぜなら、過去3作のプロデューサーを務めたのは他でもないロスタムであり、彼こそがヴァンパイア・ウィークエンドというバンドのサウンドの核を担っていたからです。
なので、今回の『Father Of The Bride』は、ロスタムがこれまでバンドのなかで果たしていた役割を、逆説的に証明するような作品になっています。
まず、音数がぐっと減りました。特にロスタムが主に担っていたシンセ系の音が減り、必然的にギター主体のサウンドに変わっています。ビートルズ<Blackbird>を思わせるギター弾き語りの<Hold You Now>を1曲目に配置しているところに、僕はなにか「宣言」めいたものを感じました。
もう一つ、「これがロスタムの個性だったんだなあ」と感じたのはビートに対する感覚です。今回のアルバムを聴くと、過去3作がいかにビートを強調していたかがよく分かります。デビュー作の頃、よくヴァンパイア・ウィークエンドは「アフロビート」というような形容をされましたが、そのキャラクターを作っていたのはロスタムだったんですね。
では逆に、ロスタムが抜けてバンドに残ったものは何か。僕はエズラ・クーニグの「メロディ」と「声」だと思います。やはりというか、エズラのメロディは絶対的な「華」のようなものがあり、さらにそれを歌う彼自身の声にも心を揺さぶる力があります(決して美声というわけではないのに、不思議ですね)。
このことは、ロスタムがバンド脱退後リリースした最初のソロアルバム『Half-Light』が(これもまた逆説的に)証明していました。この1stソロを聴いたとき、サウンドはまんまヴァンパイア・ウィークエンドだったのですが、決定的に欠けていたのがメロディと、エズラのあの声だったのです。
このように、『Father Of The Bride』というアルバムは、「変わったもの」と「変わらないもの」とがせめぎあっている作品です。18曲というボリュームと、それをメドレー的につなぎ合わせた構成は、「ポスト・ロスタム」の葛藤と混沌の表れのようであり、いくつかのメディアが指摘するように、確かにこのアルバムはビートルズの『ホワイト・アルバム』を彷彿とさせます。
ただ、『ホワイト・アルバム』はメンバー4人それぞれが曲を持ち寄っていたのに対し、『Father Of The Bride』のコンポーザーは、基本的にエズラ一人だけ。残る二人のメンバー、クリス・バイオとクリス・トムソンはレコーディング自体に参加していない曲なんかもあって、ヴァンパイア・ウィークエンドは徐々にエズラの個人プロジェクトになっていくのかもしれません。
TVに出演してる映像なんかを見ると、サポートミュージシャンを大量に入れていて、以前よりもアンサンブル感は強まっています。一人の作曲者の頭のなかで鳴っている音を、何人ものミュージシャンで再現し、増幅していくというあり方に、僕はブライアン・ウィルソンに近いものを感じました。
脱退したロスタムですが、実はこのアルバムにも一部の曲でプロデューサーとして参加しています。関係は切れてないんですね。よかったよかった。そのうちの1曲は前述の<Harmony Hall>で、実はアルバムを最初に聴いたときに「おっ、これいいじゃん!」と思ったのがこの曲でした。後で調べてロスタムが関わっているとわかり納得。
そしてもう1曲が、<We Belong Together>。この曲でロスタムはプロデュースだけでなく、エズラとともに作曲者としても名を連ねています。タイトルからしてウルッときてしまいますが、歌詞も「僕らはずっと名コンビとしてやってきた。でも、それは二人が似ていたからではなくて、むしろ僕らは常に真逆だった。真逆のまま、これからも一緒に歩いていこう」というような内容で、なんて美しく前向きな友情の描き方だろうと、激しく感動しちゃいました。
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