
50年前から
「クラシック」だった
※前々回『ミック・ジャガーは60歳で何を歌ったか』で触れた
「老いたロッカー」の話、まだ続いています。
ビーチボーイズが2012年に行った、
結成50周年記念ツアーのライヴDVD『Live In Concert』を見ました。
以前紹介した、同じく50周年記念アルバム『神の創りしラジオ』が、
既に終わっていたと誰もが思っていたビーチボーイズという「物語」に、
まさかの続編があったことを示した、感涙ものの作品であったのに対し、
この『Live In Concert』は、ビーチボーイズの音楽が結局のところ何であるのかを露わにする、
非常に刺激的な作品でした。
ツアーに参加したのは、『神の創りしラジオ』から引き続き、
ブライアン・ウィルソン、マイク・ラブ、アル・ジャーディンという3人のオリジナルメンバーに、
デイヴィッド・マークスとブルース・ジョンストンの2人を加えた、
現在生存する5人のメンバー全員。
特に、長らく別々に活動していたブライアン、マイク、アルのオリジナル組が
再び同じステージに立っている光景はとても感慨深いものがあります。
とはいえ、なんつっても平均年齢実に70歳(当時)。
まるまる肥えたブライアンとマイクとブルースも、
髪の生え際がずいぶん後退したアルも、
みんないい感じの「ボーイズ」になっています。
しかも、5人とも「普段着かよ!」と突っ込みたくなるようなラフな服装なもんだから、
バンドのステージよりも近所の碁会所とかの方が似合いそうな雰囲気。
そして、5人とも、ほとんど弾かないし、歌わない(笑)。
これはかなり衝撃的です。
いえ、もちろんポイントポイントではしっかりメンバーが歌うし、
デイヴィッドなどは味のあるギターソロを何度も聞かせてくれます。
しかし、演奏の大部分を担当しているのも、
さらに彼らの生命線ともいえるコーラスを支えているのも、
ビーチボーイズではなくバックバンドのメンバーなのです。
元々ビーチボーイズというバンドは、
レコーディングにメンバーが参加しなかったり、
ライヴ時のバックバンドへの依存が比較的大きいバンドではありました。
しかし、このステージでは、
当時よりもさらに、演奏面におけるメンバーの貢献度は下がっています。
もし、その貢献度だけで言うなら、
もはやこのステージは「ビーチボーイズのライヴ」とは言えないかもしれません。
しかし。しかしなのです。
ほとんどメンバーが演奏していないのに、
時にはメインボーカルすらバックバンドが担当することもあるのに、
それでもこの音楽は、紛れもなく「ビーチボーイズ」だと感じるのです。
美しく研ぎ澄まされたメロディと、そのメロディよりも時に前面に出てくるコーラス。
その掛け合いによる楽しさやうっとり感は、ビーチボーイズでしかありえません。
本人たちは演奏も歌すらも片手間なのに、
「ビーチボーイズ」は成立してしまっているのです。
これはどういうことなのか。
僕はふと、ビーチボーイズの音楽というのは、
「誰が演奏するか」という属人性を必要としない、
いわば「型」のようなものなんじゃないかと思いました。
仮にオリジナルメンバーが一人もいなくても、
熟練のミュージシャンとシンガーさえ集まれば、
<Good Vibration>も<Surfin' Safari>も、
オリジナルと同じ感動を生み出せるのかもしれません。
よく考えてみれば、ごく初期を除いて、ビーチボーイズのヒット曲のほとんどは、
ブライアンと彼が選んだスタジオミュージシャンで録音されていました。
では、「ビーチボーイズのメンバー」というものの存在意義(必然性)はどこにあるかというと、
普通のバンドのような演奏における記名性ではなく、
高い歌唱能力によってコーラスというビーチボーイズ最大の「型」を、
ブライアンにインスパイアさせた点にあります。
コーラスのないビーチボーイズは「ビーチボーイズ」ではありません。
そのトレードマークを具現化することに貢献したというその一点において、
ブライアン以外のメンバーの存在は十分に「メンバー」として評価するに足りえます。
オリジナルメンバーがいなくても、ビーチボーイズ足りえること。
このことは、クラシック音楽に似ていると思います。
ある作曲家がいなくなっても、
その作曲家から直々に指揮を受けたであろう初演のオーケストラがいなくなっても、
新たな指揮者と演奏家の手によってコンサートは開かれ、
新しいレコードが録音されています。
あるいはビーチボーイズは、ロック/ポップミュージックにおいて、
初めての「クラシック音楽」になりえるかもしれません。
(これは、同じく50周年を迎えたローリング・ストーンズにはできないことです)
見た目は完ぺきにじいさんですが、
彼らの作りだした音楽は、
永遠に「ボーイズ」なのです。
ツイート

ランキング参加中!
↓↓よろしければクリックをお願いします

